その夜が永遠だったらよかったのに。

全てが終わった後その場に残ったのは、街の光に照らされ少し明るい夜空と、周りの人たちがまだ余韻から醒められず持て余してた熱に包まれた、不思議な空気感だった。


4人の姿が見えなくなった後、少し間があって花火があがった。花火はとても綺麗だったけど、それを見ながらああ夏が終わってしまった、っていう実感がこみ上げてきて、ものすごく惜しくて。この花火をメンバーも同じように見上げているのなら、このままずっと打ち上げていてほしいと、同じ空間にいるこの時間に終わりなんて来ないでほしいと切実に思った。過ぎていく一秒一瞬が惜しくて仕方なかった。


全てがマッチしていた。野外というのが良かったし、季節の変わり目というのも良かったし、夜というのも良かったし、港というその場所も良かった。そのシチュエーションにぴったりな、程よい季節感と切なさとロックを兼ね備えたセットリストだった。緩すぎるMCだけが少し浮いていたかもしれないけど、それもまた”夜の横浜”という場違いな条件に多少びびっていた私を安心させてくれた。


空が暗くなってくると、黄色い月が雲間から顔を出し、カメラがそれを捉えドアップでスクリーンに映し出された。会場の外で、音漏れを聴きに来ている人たちにはそれは見えない。それでも空の色の移り変わりの中で、夏の終わりを感じながら聴く彼らの音楽は、そこにいたすべての人の胸をきゅんとさせたと思う。


私の目に映った4人は、私が耳にしたその音は、私が幼い頃からずっと好きだったバンドそのものだった。ああ、私が今まで見ていなかっただけで、この人たちはこうやって20年以上共に演奏し曲を生み出してきたのね。そう思ったら、何でもっと早くライブに行こうって思わなかったんだろう、って後悔せずにはいられなかった。


私がいた位置から表情をしっかり見るためにはスクリーンを観なければいけなかったけれど、それでも彼らがステージ上に姿を現したのをこの目で確認できた時は心臓が跳ねた。


まだ暑さが残る夕方だったはずだけど、暑さのことは全く覚えていない。ただ、周りの熱気はしっかり感じることができた。潮の香りが漂ってくるようなしっとりとした空気に包まれた夏の夕暮れ。風がステージ上のバックドロップを揺らすとライトや西日を反射してキラキラと光る。


その年の夏は暑くて、台風が来るという予報があった通り、その日は風が強い日だった。幸い台風は逸れてくれたので、予定通りの開催となった。


2013.09.14 横浜・赤レンガパーク野外特設会場


夏というには多少遅すぎる1日だったけれど、それでもあの年の夏の終わりは、私にとってあの日だった。6年前にちゃんと当時の感想書いておけばよかったと後悔したので、これ以上、一秒も記憶が古くならないうちにと思って、あの夜に想いを馳せました。


<スピッツ 横浜サンセット2013>。それが私にとって初めてのスピッツワンマンライブ。


以下セットリスト

1.恋のうた
2.涙がキラリ☆
3.みそか

4.ハチミツ

5.僕はきっと旅に出る

6.夏が終わる

7.小さな生き物

8.さらさら

9.ルキンフォー

10.運命の人

11.りありてぃ

12.ランプ

13.アパート

14.月に帰る

15.チェリー

16.渚

17.恋する凡人

18.8823

19.メモリーズ・カスタム

20.海を見に行こう

EN1.ヒバリのこころ

EN2.ベビーフェイス

EN3.夢追い虫


2019.09.03記
2020.01.09編集


スピ通信

とあるブリーダーが綴る、スピッツとの“僕”と“君”の話。

0コメント

  • 1000 / 1000